「派遣35歳定年説」は本当か

労働市場は変化した

「派遣35歳定年説」という言葉をご存知でしょうか。

派遣の仕事は、35歳を過ぎるとなくなるという噂のことです。

これが本当か嘘かと言われれば、一概にはどちらとも言えないというのが、正直な答えです。ただ、そのうち過去の伝説となることは間違いないと私自身は思っています。

その根拠をお話ししましょう。

確かに派遣の仕事はひところ、若い人向けであると言われていました。

企業はこぞって20代の若手の派遣社員を欲しがり、30歳を過ぎると仕事はどんどん減っていき、35歳ではほとんど仕事がなくなるのではと言われたこともありました。

中には、特別な経験とスキルとをもち、プロフェッショナルとして30代、40代を経てもなお活躍を続ける派遣社員もいましたが、ごく少数でした。

でもそれは、労働市場に20代の若手が数多くいたからです。

「平成27年版　厚生労働白書」によると、日本の人口構成の変化を人口ピラミッドで見たとき、１９５０年には若い年齢ほど人口が多い、いわゆる「富士山型」でした。

それが１９８０年になると、第２次ベビーブーム以降の出生数の減少傾向、中高年の死亡率低下によって、上半分、年齢の高い層が増加して膨らみ、下半分の若い層が減少してすぼまった「釣鐘型」へと変化しています。

さらに２０１４年には、団塊ジュニアの世代以降の少子化、平均寿命の延伸等によって少子高齢化がさらに進み、40代と60代に人口の山がくる「ひょうたん型」へと変貌を遂げています。

こうした事態を受けて、労働市場でも若い働き手がどんどん減っています。

今や労働力の中核を数の面で担っているのは、間違いなく40代です。

日本の総人口を見ても21世紀初頭より減少傾向を続けている「人口減少社会」であり、女性やシルバー層からできる限り労働力を確保しようと、政府が躍起になっている事情もうなずけます。

こうした環境では、どんな企業であっても「20代の若い働き手が是が非でも欲しい」などと言い続けることは到底無理です。

もちろん今でも、「職場のメンバーが20代中心だから」という理由で、その職場になじむように若手の派遣社員を求める企業もあります。

しかし今20代のメンバーも、いずれ確実に歳を取ります。いつまでも、「派遣社員が若手でなければダメ」というわけではなく、逆にそれにこだわる企業のほうこそ淘汰される時代になるでしょう。

今はまだ移行期です。

法律では一部の例外を除き、年齢によって採用・不採用を決めることは禁じられていますが、派遣社員に限らずどの雇用形態に関しても若手を欲しがる企業が多いかも知れません。

表向きには言いませんが、実際には年齢が高いからという理由で採用を断っている企業もあるようです。

一方で、私が労働者派遣事業を営んでいる中では、年齢が高いからといって必ずしも仕事につけないわけではなくなってきたという感触もあります。

30代後半は言うに及ばず、40代、50代、場合によっては定年を過ぎた60代以上でも、極端に選り好みしなければ、働ける先は数多くなってきたように感じています。

少なくとも私の会社では、年齢に関わりなく、本人と十分話し合った上で、その人にぴったり合った仕事を案内できる自信があります。

日本の少子高齢化は、これからますます加速していくと言われています。

今は人口のボリュームゾーンが40代かもしれませんが、国立社会保障・人口問題研究所によって、２０２５年には50代になるという予想もされています。

もはや若い人しか採用しない、仕事につけないなどと呑気なことを言っている場合ではありません。

働く意欲がある中核層には、できるだけ働いてもらわなければ日本という国が立ち行かなくなる時代に突入していると言えます。

そんなわけで、私としては「派遣35歳定年説」はそろそろきっぱり否定してもいい時期に来ているのではないかと思っています。

派遣会社によっていろいろな考えかたや姿勢があるのは事実ですが、こと私の会社に限って言えば、年齢の壁を恐れずに、40代、50代の人にもまずは派遣会社に相談に来ていただきたいと考えています。