派遣のレジ打ちからスタートし、取締役にまで昇進 | ハロ!わくおさん

派遣のレジ打ちからスタートし、取締役にまで昇進

「この3月の株主総会で、S.Kさんを取締役にしたよ」

久しぶりに会ったI社長が、私の顔を見るなり、目を細めてそんな話をしてくれました。

I社長が経営するのは、創業80年を超える地元密着の中堅スーパーです。

「ここでは、実際に派遣で働いていた方の実体験を、NFAの代表大崎玄長さんが教えてくれているよ!」

S.Kさん(30歳)は5年前、私の会社が派遣する派遣社員として、ここで働き始めました。

今だから正直に言いますが、「この子、本当に仕事を続けられるのかな」というのが、彼の第一印象でした。

話しかたも立ち居ふるまいも見るからにナヨナヨしていて「頼りなさげな男の子」という風情で、お客さま相手の現場が務まるかどうか、少しだけ不安もありました。

レジ打ちから慣れてもらって、続けてくれれば……。

そんな期待をこめて派遣したことを今でもよく覚えています。

しかし実際には彼の活躍は目覚ましく、レジ打ちからスタートするや、陳列、配達、呼び込みと次々に仕事を覚えてみずから職域を広げていきました。

派遣で働くようになって2年も経つと、店舗での仕事は何でも一通り、一人前にこなせるようになっていたのです。

そんなころ、I社長から「菅田さんを正社員として採用したい」という申し出を受けたのです。

S.Kさんにもこのままここでの仕事を続けたいという思いがあり、めでたく正社員として入社。

業務意欲をさらに高めて、仕入業務にも本格的に取り組むようになり、早朝から市場に出掛けてセリにも積極的に参加しました。

その頑張りが認められて、今では取締役。経営陣の一員です。

実はこのスーパーの経営陣は、S.Kさんが加わるまでは親族だけで固められていて、後継者がいなかったのです。

誠実で信頼できる人材を入れて、会社に新しい風を吹き込みたい。

次世代を担う人材を育てたい。

それが、I社長の切なる願いでもありました。

S.Kさんは、みごとにその期待に応えたというわけです。

かつては「頼りなげな男の子」だった彼も、今は結婚し、間もなく一児の父となる予定だとか。

「仕事が楽しくてしかたない」と、私に嬉しそうに語ってくれました。

経営陣に参画するからにはと、経理を猛勉強中だとも。

人生がますます充実している様子なのです。

もしかしたら10数年後、このスーパーが創業100周年を迎えるころには、派遣社員出身の社長が誕生しているかもしれない。

実は私は、密かにそんな期待も抱いています。

今は自信に満ちあふれた表情のS.K取締役に、私はこんなふうに声をかけました。

「重役!就任おめでとうございます。引き続き弊社をよろしくお願いします。」