M.Tさん(33歳)が1年前、初めて私の会社に派遣登録に来たときは、驚きと同時に、少々途方に暮れました。
彼は18歳で大学受験に失敗。
その挫折感がきっかけで家の外に出られなくなってしまい、アルバイトの経験もないまま15年間を過ごしてしまったというのです。
「ここでは、実際に派遣で働いていた方の実体験を、NFAの代表大崎玄長さんが教えてくれているよ!」
私は彼にこうたずねました。
「君、本当に家にいただけ? 何にもしていなかったの?」
そうです。彼は、正真正銘のニートでした。
「でも、このままじゃいけないと思ったんです。何か仕事をさせてください」
彼はそのとき、私の目を真っすぐに見てこう言いました。
別に仕事の経験がないからといって、派遣の仕事ができないわけではありません。
未経験から覚えていける仕事だって、実はたくさんあります。
ただ、ニートの場合、長い間、人と接した経験がないまま過ごしてきたという点が問題なのです。
一見、ただ黙々と時間から時間を働いているような職場でも、仕事をする以上は何かしらのコミュニケーションは必要です。
彼にそれができるのか。私の懸念はそこでした。
しかし、彼が自分から「このままじゃいけない」と一念発起したその心意気に打たれて 、どうにか協力したいという気持ちになりました。
私が彼に最初に提案した仕事は、倉庫の軽作業。
時給は1000円。けっして高くありません。
「この仕事、やってみるか」と問いかけると、「はい、やります」としっかりした返事が返ってきました。
そこから、彼の初めての職業人生がスタートしたのです。
最初は彼を派遣している私たちにも、「本当に続くだろうか」という不安がありましたが、彼は頑張りました。
真夏の炎天下の日も、どしゃぶりの雨の日も、冷たい風が吹く冬の日も、毎日自転車で通勤 。
軽作業といっても力仕事なので、最初は身体もきつかったことでしょうが、もともと身体が大きくて丈夫だった彼を、派遣先も頼りにしてくれたようです。
それから半年後。ようやく働く自信をつけた彼から、こんな相談がありました。
「正社員として、1つの職場でじっくり働きたいんです」
人生は山あり、谷あり、いろいろなことにぶつかります。
彼はたまたま大学受験での挫折がきっかけでニートになってしまいましたが、彼だけでなく、いろいろなきっかけで職業人生が始められなかった、あるいはブランクを作ってしまったという人はたくさんいます。
そういう人たちが、どうやって再スタートを切ればいいのか。
大きな悩みだと思います。
しかし、そこを乗り越えないことには、何も始まりません。
とにかく仕事を始めたい。そして自分が変わっていきたい。
その思いさえあれば、自分の道を切り拓くきっかけになるのが派遣の仕事なのです。
村田さんに、月給はいくらからならスタートできるかを聞くと、「まだ実家暮らしなので15万円からで大丈夫です」と、迷いのない潔い返事がありました。
「でも頑張っていると評価していただけたら、昇給していただきたい」とも。
そこまでの決意なら、と安心して就職先を紹介し、彼は今、正社員として頑張っています。
なお正社員で月給15万円だと東京都の最低賃金を下回る場合があるので、彼の初任給は少し高めに設定されました。
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